訪日外国人の中でトップの割合を占めている中国人。旅行業界を始めとした企業にとって中国人をターゲットとしたインバウンドマーケティングの成功は重要な課題でしょう。
インバウンドマーケティングには様々な手法がありますが、中でも現在注目を集めているのがSNSを利用したマーケティング手法です。
今回は中国人向けSNSインバウンドマーケティングのコツを成功事例のご紹介を交えながら解説してまいります。
目次
統計データで見るインバウンド訪日中国人の状況
まずはじめに訪日中国人の状況について統計データを元に解説いたします。
インバウンド訪日中国人の統計データ(訪日人数、日本での消費)
中国人の訪日観光客数は2014年以降年々増加傾向にありました。
画像:訪日外客数 各国・地域別の推移|日本政府観光局(JNTO) 日本の観光統計データ
コロナ禍前の2019年訪日中国人観光客数は約959万4,000人で、前年2018年の訪日中国人観光客数約838万人から約14.4%増加していました。その後も伸びる傾向にはありましたが、コロナ禍の影響で2021年には4万2,000人まで減少。2022年には15万5,000人まで回復したので、今後はいかに元の状態に戻るかがカギとなります。
また、数年前に「爆買い」という言葉が話題になりましたが、訪日中国人の日本における消費は他国と比較して買物代の占める割合が大きい傾向にあります。
画像:旅行消費額 費目別の内訳|日本政府観光局 日本の観光統計データ
費目別1人当たりの旅行消費額の推移の統計では、2010年以降全ての年で1人当たりの旅行消費額の概ね半分を買物代が占めています。2019年の購入者単価は全費目合計で212,809円、そのうち買物代は全体の51%を占める108,788円となっています。
中国人旅行客の消費額は世界各国の中でも非常に多い状況となっています。たとえば日本の隣国である韓国の消費額は合計76,137円。買い物代は23.6%を占める17,939円です。
画像:旅行消費額 費目別の内訳|日本政府観光局 日本の観光統計データ
2017年の日本における中国人と韓国人の支出を比べると、
中国:227,258円(買い物代 121,453円)
韓国:68,499円(買い物代 19,414円)
となっており、合計金額では約3.3倍、買い物金額では約6.26倍と中国人観光客は消費傾向が圧倒的に強いことが分かります。
中国人観光客へ向けたインバウンド施策は自社の売上向上につながる可能性があるため重要課題として今大きな注目を集めています。
参考:
インバウンド訪日中国人はSNSで情報を集めている人が多い
画像:訪日旅行データハンドブック2022 中国の部68ページ|日本政府観光局(インスタラボにて一部赤枠編集)
訪日中国人の旅行情報源としては旅行会社のホームページやパンフレット、旅行ガイドブック、SNSや個人のブログが代表的な情報源として挙げられます。
中でもSNSを日本旅行の情報源とする中国人が増えています。2015年にSNSを情報源として活用した訪日中国人観光客は19.4%でしたが、2019年には30.5%となり、SNSは多くの情報源の中で最も活用されているものとなりました。
中国人へ向けた情報発信とサービス利用および商品購入の経路としてSNSの活用が今後欠かせないことがわかります。
参考:訪日旅行データハンドブック2022 中国の部68ページ|日本政府観光局
中国のインターネット・SNS利用状況
中国におけるインターネット人口は8億人を超えると言われており、全世界でも屈指の規模を誇っています。
SNS利用者の割合も高く「SNS大国」と言っても過言ではないのですが、中国のインターネット環境は特殊であり他国とは異なる特徴を持っています。
ここでは中国のインターネット事情とSNSの利用状況について紹介していきましょう。
中国のインターネット・SNS利用状況
画像:DIGITAL 2022: CHINA|DATAREPORTAL
2022年に発表されたDATAREPORTALの調査によると、中国の人口は約14億人であり、そのうちSNS(ソーシャルメディア)ユーザーは約10億人と68%の中国人がSNSを利用しています。SNSは中国においても非常に人気であり、生活に浸透していることが分かります。
参考:DIGITAL 2022: CHINA|DATAREPORTAL
世界的に人気のSNS(YouTube、Facebook、Instagram、Twitter)などはほとんど使われていない
中国ではSNSの利用が盛んであることがわかりましたが、世界的に人気の高い「YouTube」や「Facebook」「Instagram」「Twitter」などのメジャーSNSは中国においてはほとんど利用されていません。
実際、アジアのSNS(Instagram,Facebook)ユーザー数を調査したところ、中国でのInstagram利用者は全人口の0.2%、中国でのFacebook利用者数は全人口の0.1%と、世界で人気のSNSにおいては非常に低い利用率となっています。
この状況の大きな理由として中国の特殊なインターネット環境が挙げられます。
中国では政府によって非常に厳しいインターネット規制が敷かれています。「金盾」という包括的な情報管理システム構築プロジェクトが実施されており、「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる大規模情報検閲システムによって政府が認める情報以外にはインターネット利用者がアクセスできないようになっているのです。
「YouTube」や世界的に人気のSNSの多くはインターネット規制によって中国からは利用できません。そのため中国ではこれらのSNSに代わる独自のSNSが利用されています。
中国人観光客へのSNSインバウンドマーケティングを行う際も、世界的に人気のSNSではなく中国内で人気のSNSを活用する必要があります。
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中国で人気の高いSNS
世界的人気SNSに代わるSNSとして、中国では以下のSNSが人気となっています。
WeChatはTencent社によって開発され2011年からサービスが提供されているメッセンジャーアプリです。後述のQQの発展型としてリリースされ、現在中国で最も人気のあるメッセンジャーSNSとなっています。2022年に発表された利用レポートでは、月間アクティブユーザー数が12億人を超えたというデータが公表されました。
QQはWeChatと同じくTencent社によって開発され1999年からサービスが提供されているコミュニケーションツールです。先述の通りWeChatの前身に当たり、インスタントメッセンジャー機能の他にもSNS機能をはじめ様々な機能を有しています。歴史が古く一般家庭だけでなくネットカフェや公衆用PCなどにもインストールされていることが多く、中国で最も普及しているSNSです。
2020年までの統計データでは月間アクティブユーザー数は約7億人となっています。
WeiboはSINA社によって開発され2009年にリリースされたSNSです。TwitterとFacebookを組み合わせたような機能が実装されているのが特徴で、2022年の月間アクティブユーザー数は5億1,100万人と非常に高い人気を誇っているSNSです。
RED
REDは若い女性を中心に人気となっているSNSです。最大の特徴はECアプリでもあるという点で、写真や動画を投稿したり閲覧したりする他に商品を購入することが可能になっています。ECアプリらしく口コミの投稿が活発である点も特徴的なポイントです。
2022年までの統計データでは月間アクティブユーザー数は1億3,800万人となっています。
TikTok
TikTokはBytedance社によって開発・運営されているSNSです。2016年9月にリリースされたTikTokは音楽に合わせて撮影された15秒ほどの短い動画を投稿・共有することができるSNSで、若い世代を中心に高い人気を誇るSNSです。
2022年の統計データでは6億人超の月間アクティブユーザー数となっています。
SNSを活用した3つの中国人向け訪日インバウンド施策とマーケティング成功事例
SNSインバウンドマーケティングにおけるSNSの活用法には複数の方法があります。
SNSを活用した3つの中国人観光客向けインバウンド施策例とそれぞれのメリット・デメリット、施策ごとのマーケティング成功事例をご紹介します。
1. 中国で人気のSNSを運用する
中国人向けのインバウンドマーケティングにおけるSNSの活用法として挙げられる1つ目の方法は、中国で人気のSNSを自社で運用することです。この方法には以下のメリットとデメリットがあります。
メリット:無料で始められ、情報を積極的に発信できる
世界中で利用されている多くのSNSと同様に、中国で人気のSNSも無料でアカウントを開設し利用することができます。
サービスの利用開始にコストが掛からないのはSNSの大きな利点と言えるでしょう。気軽に投稿できるため情報を積極的に発信することができ、SNSの特性上情報が拡散しやすいため、上手く運用することができれば低コストで効果的なマーケティングを実現可能です。
デメリット:中国語に秀でていないと難しく、運用の負担も大きい。人気になるまで時間がかかる
中国で人気のSNSを自社で運用する際に最大のデメリットとなるのが言語の壁でしょう。SNSのサービス自体が中国語メインで提供されている他、ターゲットである中国人が利用する言語も中国語です。そのため中国のSNSを運用してインバウンドマーケティングを行う際には運用担当者が中国語に秀でていることが必須条件となります。
自社ブランディングには最適ですが、
- ターゲットにとって魅力的な情報を継続的に発信し続けなければならず担当者への負担が大きい
- 多くのフォロワーを獲得しなければマーケティング効果が十分に発揮されない
- 数多くのフォロワーを獲得し人気アカウントとなるまでに時間が掛かる
など、SNSを運用する上で避けられないデメリットもあります。
中国で人気のSNSアカウント運用成功事例
Weiboアカウント:全日本空輸株式会社(ANA)|Weibo
日本の大手航空会社である全日本空輸株式会社(ANA)はWeiboで企業の公式アカウントを運用しています。中国人向けに日本への旅行プランなど自社で提供しているサービスを案内している他、積極的に日本のニュースや情報なども発信し、中国の人々に日本への関心・興味を高めてもらえるような工夫がされています。
航空機や自社職員をテーマにした動画を投稿したり、様々なキャンペーンを展開されていたりと自社のPRも活発に行われており、フォロワー数が約84万3,000人(2023年2月現在)を超える人気アカウントとなっています。
2. 中国で人気のSNSへ広告を配信する
中国人向けインバウンドマーケティングにおける2つ目のSNS活用法は、中国で人気のSNS上に広告を配信する方法です。この方法では以下のようなメリット・デメリットが挙げられます。
メリット:詳細なターゲティングが可能。低予算から広告配信可能
世界的に人気のSNSと同様に中国で人気のSNSでも公式で広告配信サービスを提供しています。どのSNSでも複数の種類の広告配信方法を選択することができ、性別や年齢といった基本的な情報から居住地域や興味のあるジャンルなど、様々な情報を用いて詳細なターゲティングが可能であり自社の商材に合ったターゲットにリーチしやすくなっています。
広告配信に利用する予算も設定で細かく調整を行えるため、低予算の場合でも広告の配信を行うことができます。
デメリット:クリエイティブ制作や競合との入札でコストが多くかかる場合がある
SNS上での広告配信ではコスト面でのデメリットが発生する場合があります。まず、広告として配信するためのクリエイティブ制作コストがかさんでしまう可能性があります。独自でクリエイティブを制作するのであれば掛かるコストは最低限に抑えることができますが、制作を専門家に依頼した場合は条件次第で少なくないコストが掛かってしまうでしょう。
また、SNSの広告配信枠は限りがあるため競合との入札制で枠を取得するのが一般的です。多くの枠を取得したり繁忙期に枠を取得する場合、入札コストはかなり高くなってしまいます。
中国で人気のSNSアカウント運用成功事例
Weiboアカウント:株式会社エディオン|Weibo
日本の家電量販店チェーンである株式会社エディオンはWeiboで公式アカウントを運用しています。家電を購入する訪日中国人観光客は非常に多く、株式会社エディオンは訪日中国人観光客誘致のため中国で人気のSNSを運用しています。
SNS上での広告配信も活発に利用されており、Weiboでは公式アカウントのフォロワーを増やす広告プロモーションを活用しています。広告プロモーションの成果もあり2023年2月現在のフォロワー数は約3万7,000人に上ります。
株式会社エディオンは非常に熱心に中国人向けインバウンドマーケティングに取り組む企業であり、Weiboの他にWeChatも運用しています。広告の配信やクーポンの配布といった施策が実施されており、自社で中国人向けインバウンドマーケティングを行う際にはぜひとも参考にしたい企業です。
3. 中国で人気のインフルエンサーにPRを依頼する
中国人向けインバウンドマーケティングにおいて挙げられる3つ目のSNS活用法は、中国で人気のインフルエンサーにPRを依頼する方法です。この方法を用いる場合に考えられるメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット:自社にない数万~数百万の中国人ユーザーに高い訴求力でリーチできる
中国におけるインフルエンサーはKOLと呼ばれ非常に高い人気を誇っています。KOLはSNS上で多数のファン・フォロワーを抱えており、その数は数万から数百万にも及びます。
中国で人気のSNSを自社で運用した場合、多数のフォロワーを獲得し人気アカウントになるまでに時間がかかってしまうデメリットがあることは先述の通りですが、KOLにPRを依頼した場合はそのKOLが抱える数万~数百万のフォロワーに対し高い訴求力で情報をリーチできるため、比較的短い時間で高いマーケティング効果が期待できます。
デメリット:自社で中国人インフルエンサーに依頼することが難しい(言語的な壁、親和性の高いインフルエンサーの選定など)
KOLにPRを依頼する場合に考えられるデメリットは、自社から直接KOLに依頼することが難しい点が挙げられます。中国で人気のKOLの大部分は中国人ですので、中国語を話せるスタッフがいなければコミュニケーションを取ることが非常に難しくなります。
国民性や文化など日本との違いの大きさから自社商材と相性の良いKOLを選定することも難しく、自社で独自にKOLを起用するには高いハードルが存在します。
日本向けにKOLのマネジメントを行っている企業や仲介企業に依頼するという方法を用いることでKOLを起用しやすくなります。その場合は仲介料などのコストが発生することに留意しましょう。
中国で人気のインフルエンサーにPRしてもらった成功事例
日本の独立行政法人国際観光振興機構(日本政府観光局:JNTO)は、2017年に九州の観光地や名所、食事や名産品などの魅力を紹介し、中国人の日本旅行への興味・関心の向上、訪日中国人観光客の増加を目的としたSNSインバウンドマーケティングを行いました。
Weiboで人気の高い「周若雪Patty」さん、「老薛薛郝」さん、「小小莎老师」さんの3名のKOLを九州に招き、九州旅行を実際に体験してもらった内容をSNS上でPRしてもらっており、3名のKOLが抱える多くのフォロワーへ九州の魅力を伝えることに成功しています。
中国で人気の動画配信サービス「一直播」を利用してライブストリーミング配信も行っており、生放送番組による非常に高い訴求力を実現しています。
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SNSを活用した訪日インバウンドマーケティングの成功ポイント
SNSを活用した中国人向けインバウンドマーケティングの手法を3つご紹介いたしましたが、どの方法を用いる場合でもマーケティング成功のために押さえておきたいポイントをご紹介します。
中国語が話せるスタッフを雇っておく
SNSを活用した中国人向けインバウンドマーケティングを行う際の前提条件とも言えるのが、中国語を話せるスタッフの確保です。
SNSの利用やフォロワーとのコミュニケーション、投稿内容や広告クリエイティブの制作、中国人インフルエンサーとのコミュニケーションなど、何をする場合でも中国語は必須になります。
SNSアカウント運用、広告、KOL(インフルエンサー)施策は中国語に特化させる。違和感が生まれないようできれば中国人にアドバイスしてもらう
SNSアカウントや広告の内容、インフルエンサー施策などコンテンツは全て中国語に特化させましょう。
表現方法や言い回しなどネイティブからは違和感が感じられる部分が発生しないよう、コンテンツの制作の際には中国人のアドバイスを受けることも重要なポイントです。
中国語専用のWebサイトやランディングページを用意しておく
SNSを活用したマーケティングの目的のひとつに自社ホームページなど他のウェブサイトへの誘導があります。
ウェブサイトへ誘導が成功したとしても、誘導先のウェブサイトが日本語で構成されていては中国人には利用できず、せっかくの機会を逃してしまうことになります。
インバウンド中国人観光客を自社のターゲットにしているのであれば、誘導先のウェブサイトやランディングページとして中国語で構成された専用ページを用意しておきましょう。
訪日中国人は現金決済が多いが、キャッシュレス決済にも対応させておく
訪日中国人が実際に自社製品の購入やサービスを利用する際の環境もしっかりと整えなければなりません。特に利用できる決済方法を充実させることは重要です。
中国ではキャッシュレス決済が広く浸透していますが、現状、訪日中国人は決済方法として現金での決済を利用する場合が多い状況です。近年はクレジットカードやデビットカードといったカード決済を利用する訪日中国人が増加傾向にありましたが、2019年では減少に転じています。
その一方で増加の一途をたどっているのが交通系ICカードやモバイル決済です。特にAlipayやWeChatを使ったモバイル決済は2019年で76.5%と、前年より20%増加しています。
画像:訪日旅行データハンドブック2022 中国の部75ページ|日本政府観光局
中国では電子マネーの普及が急速に進んでおり、こういったサービスにもしっかりと対応しておくことが訪日中国人観光客を招き、スムーズに決済してもらう上で重要となります。
決済の利便性がよいことは集客上のアピールになりますので、キャッシュレス決済を前提として設備を整えておくとよいでしょう。
参考:訪日旅行データハンドブック2022 中国の部75ページ|日本政府観光局
まとめ
訪日観光客の大部分を占める中国人観光客へのインバウンドマーケティングは企業にとって重要な課題であり、成功させることができれば大きな利益を得ることも可能です。
訪日中国人観光客の増加傾向は2020年のコロナ禍によりいったん落ち着いてしまいましたが、これからは伸びると予想され、逆にまだ客足が戻っていない今が中国人向けのインバウンドマーケティングを強化するには良いタイミングとも言えるでしょう。
中国で人気のSNSを活用した中国人向けインバウンドマーケティングを企画・検討される際にはぜひ、今回の記事を参考としてご活用ください。
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